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【遥か地平線の彼方へ】第一章(4)

第一章(4)

 ランツ・フリードリヒ・エドゥアルト・フォン=ケストナー。その少年はそう名乗った。彼の父は、今から十数年前、エッカルト大公国との同君連合ニーダーオイレンブルク公国の小さな農村に訪れた悲劇、そして救出の立役者となった。第三擲弾騎兵連隊長、『ノースロイゼの槍』ことヴィルヘルム・フリードリヒ・フォン=ケストナー騎兵大佐は、今や中将に昇進し、第三軍管区下騎兵第二旅団長に補されていた。彼は指揮官として一流で、かつ軍事理論家としても有名であったが、彼の著作には必ず連名でもうひとりの名前が記されている。
 その名こそ、齢わずか十二の息子、ランツであった。
 あの一件以来、ミハエルはフォン=ケストナー将軍と何度か会っているが、その息子とは面識がなかった。後にローゼから聞いた話によれば、ランツはすでにアビトゥーアをパスできる学力と知識を備え、砲兵運用理論においては欧州の第一人者であるらしい。
 そんなランツであれば、わずか十二歳にして国内最難関のひとつである士官学校の入試をパスできるのは、ある種当然のことであった。彼の名声はすでに鳴り響いており、誰も親のコネだとは思わなかったのだ。
 ランツが入学し、マリオン陸軍士官学校の新学期が始まったのは九月であったが、四ヶ月過ぎた学校は、随分落ち着きを取り戻しつつあった。
「そこで、転進。しかる後にこうして……」
 その日もミハエルは、机に並べられた部隊を動かしていた。
「なるほどね。そうすればまともに戦えるな」
「だろ?」
 棋上演習で同じ班になったカルル・フォン=オイレンブルクも腕を組んで頷いた。
「ランツはどう思う?」
「…………」
 いつも最終確認はランツが行うことに、このクラスではなっていた。ランツはしばらく親指の爪を噛みながら黙り、それから一気に話しはじめる。
「そうですね……挟撃するのはわかりますが、敵騎兵隊の目的を挫くことを第一目的とすべきでしょう」
「敵騎兵の目的?」
「はい。この場合、偵察です。……ですが、威力偵察ではなく、騎兵のみですから……相手もこちらの状況、規模を把握していないということです」
 ランツは指でもう一度敵騎兵のルートをなぞる。
「彼我の戦力比はご存知の通りで、こちらのみが情報を知っている。これを敵に悟らせるのはまずいです。よって……このように、極力接近で戦います。幸い森がが背になっており、秘匿するには十分でしょう」
 その後も、考えられる不測の事態ごとに、ランツが回答をつけていく。
「終わったーっ!」
 大きく伸びをするのは、同じ班のカルルである。
「さすがは首席だな」
 他の生徒もランツを褒め称える。
 事実ランツは入学後行われた試験で、周囲の予想通りトップに躍り出た。謙虚な性格も相まって、現在では一部の頑固者を除いて頼られる存在になっていた。
 ダン!
 今まで隣の机で別の班の報告書を書いていた少年が立ち上がる。
「付き合ってられるか!」
 そう吐くと、その少年は足早に教室を後にする。
「あ……ヴィンツェンツ!」
 隣に座っていた別の少年が呼び止めるが、無視して扉からも見えなくなった。
「……ごめん、フォン=ケストナーくん。……ヴィンツェンツも、悪気はないと思うんだ」
「構いません。どうか、お気になさらずに。フォン=ゲッツさん」
 フォン=ゲッツと呼ばれた少年は、ランツに頭を下げるとヴィンツェンツと呼ばれた少年の後を追っていった。
「まぁ、気にするな、ランツ。いつものことだ」
「あいつも、そんなに悔しいのかねぇ、首席奪われたからって」
 ミハエルとカルルは、表情が少し暗くなったランツの肩に手を載せる。
「何か聞いてないのか、カルル?」
「何が?」
「いや、貴族のしがらみとか、そういうの。あいつ、名門ブラウアー伯爵家だろ? 俺は平民だからわからないし」
「そうは言っても、俺はしがない男爵家の次男坊だぜ? むしろ姫様の方が知っていると思うけど?」
「……いや、姉さんの性格じゃ……ね」
「やっぱりなぁ……」
 本人の頭越しに、ミハエルとカルルは会話を続ける。
「ハワードも、苦労してるな」
「ゲッツ家って、ヴィンツェンツの執事の家柄……とかじゃなかったよな」
「そういう話は聞かないぜ? 確か誰かが『家はマリオンにある』って言ってたけど」
「あの!」
 突然間から上がった声に、二人は下を向いた。
「もう、次の授業ですよ……?」
 ランツからの指摘に、二人はあわてて練兵場に走るのだった。




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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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