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【遥か地平線の彼方へ】第一章(8)

第一章(8)

「で、だ。どうして俺はお前の買い物に付き合わにゃならん?」
「まぁ、まぁ、いいじゃないっすか先パイ」
 ヴィンツェンツが張り切ったため、騎兵科の授業が早くあけた昼下がり。ミハエルはヒルデにつかまり、先輩として喫茶店でお茶を奢らされていたのだが。
「俺の懐事情は理解してるだろうに」
「じゃあ、出世払いってことにするっす」
「ヒルデよ……お前、俺より偉くなる気か?」
「うーん……よくわからないっすね」
 お茶菓子をほうばりながら、嬉しそうにヒルデは聞き返す。
「……もうちょっとおしとやかに食べたらどうだ? 女の子だろ」
「いやっすね、先パイ。下士官学校に放り込まれた時から諦めてるっす。でも」
 少し下を向いたヒルデは、嬉しいとも悲しいとも取れる表情をした。
「先パイに言われると嬉しいっすね」
「ヒルデ……?」
「さ、もう飲み終わったんで、帰るっすよ、先パイ」
 半ば強引に話を切られたミハエルはそのまま腕を引かれるように立ち上がる。
 ――と。
「キャッ」
「あ、先パイ!!」
 「え?」と反応するのが精一杯だった。見上げた空に舞う、二つのティーカップ。そしてゆっくりと迫り来る、湯気を発する透き通った赤色の液体。まさか、と思うだけの時間さえないまま……
「熱っー!!!!!!!!」
「先パイ! 大丈夫っすか!?」
「っ……」
 ミハエルは、紅茶がかかった手の甲を見る。
 ――幸い、水ぶくれはできてないようだ。……真っ赤だがな。
「わ、わ、わたし……その……」
 店員は大慌てでわびようとする。
「落ち着いてください。こちらはなんとか大丈夫みたいなので。ヒルデ。片付け手伝ってあげて」
「は、はいっす!」
「もも、申し訳ありませんでした!!!」
 店員はうろたえながらも、ヒルデと共にひっくり返した食器類を持って店内に戻っていった。パニックから脱したばかりの足取りは、相当乱れていたわけだが。
「……たら」
「え……? あ……」
 差し出されるハンカチ。鈍感と揶揄されるミハエルでも、この子がハンカチを貸してくれようとしてくれていることくらいは察することが出来る。
「使っても、いいの?」
 少女はこくりと頷く。
「じゃあ、使わせてもらうよ」
 ミハエルは受け取ったハンカチで手を拭き始める。
「あーあ、やっぱりズボンにもかかってたか」
 幸いふくらはぎの部位で、失禁しているように見えることはない。プルーセン軍人としてかなり恥ずかしいことにならずにすみ、ミハエルはホッとした。
「助かったよ。ありが……」
「先パ~イ! お手伝い終わったっす!」
 ……お礼の途中で入る元気な後輩の声。
「ん? 痛むんすか、先パイ?」
 少し、と振り返り微笑んでみせる。
「まぁ、我慢できるくらいだから、大丈夫だろ」
「それはよかったっす」
「そうだな……って、あれ?」
 ミハエルが振り返ったそこには、すでに少女の姿はなくなっていた。
「……おかしいな」
「どうしたんすか、先パイ?」
 不思議がるヒルデに、なんでもないと答えたミハエルは、首をかしげながら帰途に着くほかなかった。




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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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