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【遥か地平線の彼方へ】第一章(14)

第一章(14)

 ミハエルは、姉たちの授業が今すぐ終わるでもないので、腹に何か詰めるだけでもしておこうと思った。とはいえ、教室ではカールがなにやら騒がしいことをはじめたので、場所を移動したのだが。
 静かな場所……というと、やはり図書館横の中庭といったところか。ミハエルは少し早足でそこへ向かい、朝に寮で調達したサンドウィッチを口に詰め込む。
「ほう、こいつはなかなか」
「ぶ! ……ゴホ、ゴホゴホ!」
 突然耳元で上がる感心したような声に、ミハエルは思わずむせた。
「おっと、すまねぇ」
 なんとか飲み込むものを飲み込んだミハエルは、目じりに涙を溜めて見上げる。憎たらしいほどの青空に映える白い軍服が眼に入った。
「隣いいか?」
 逆光でもそれとわかるくらい、西之上少佐は笑顔で尋ねる。構いませんと聞くが早いか、少佐は制帽をとりミハエルの脇に座った。
「ここのところは随分と暖かくなったな」
「え、あ、はい」
 陽光に手をかざし、少佐は唇の端を上げた。
「実はな、オレも弁当を用意してるわけだ。……っと、これだ」
「布……?」
「『ふろしき』ってんだ。母国のもんでな。こうしてモノを包むわけ。今回は弁当だがな」
 呆気に取られるミハエルの前で、少佐は二本の棒を手に取り、取り出した弁当箱のふたを開けた。
「あ、それは知ってます。確か、『箸』ですね」
 ヤーポネズムが吹き荒れた少し前の欧州の風のためか、ミハエルでも東洋の島国のことは多少わかった。
「いただきます」
 手を合わせて、ライスに箸をつける少佐に、ミハエルは感心する。
「……なんて豪華な」
 少佐の手元に視線を落としたミハエルは、己の目を疑った。
「そうか? 普通だと思うが」
「いえいえ! ……さすがは大使館員ともなれば、こんな豪華なお弁当が提供されるんですね」
 バスケットやランチボックスのようなものではなく、漆黒のいかにも高そうな箱につめられた、丁寧に巻かれただし巻き玉子、焼かれたサーモンにライス。そしてその中央に赤い漬物のようなものが鎮座している。
「これ、何ですか?」
 その赤い球体が奇異だったので、ミハエルは指差す。
「ああ、これか」
 と、突然少佐は声を押し殺して笑い出す。
「どうしました?」
「ま、まぁ、一回食べてみ?」
 差し出されたその丸い物体を、ミハエルは口に含んだ。
 そう、含んでしまった。
「ぶ! がっ!」
 突然襲う舌の痺れに、ミハエルはまた咳き込んだ。
「ちょ……水、水!」
「ほいよ」
 ニヤニヤとしながら、少佐は水筒を差し出す。なんとか息を整えながら、ミハエルは舌の上に残ったものを洗い流す。
「な、何なんですか、一体!」
「梅干。オレの地元の特産だ。これを入れると飯のもちがよくなるんでな」
「は、はぁ……」
 そういう間も、少佐はぱくぱくと箱の中身を口に運ぶ。
「お前も食うか?」
「いいんですか!?」
「おうよ。……はい、あーん」
 玉子焼きを箸で切り、少佐はつまんでミハエルに差し出す。
「しょ、少佐? さすがにこれはいろいろとまずいと思うんですが……」
「気にするんじゃねぇよ、男同士なのに」
「まぁ、そうなんですが……」
 知り合いの国王陛下を思い出して、少し気が進まないミハエルだったが、ひとまず自身のランチボックスに置くことで決着がついた。つまんで口に放り込んだミハエルは、そのまま目を丸くした。
「う、美味い!」
「だろ?」
「すごいですね。大和の料理人を直接呼んだんですか?」
「あ、いや。こいつぁ知り合いの子が作ってくれたもんでね」
 少佐の眼差しが穏やかになる。
「まぁ、彼女の趣味だな。大使館の厨房をよく借りてる。俺の妹分みたいなもんだ」
「妹……」
 ミハエルは脳裏に、精一杯背伸びして母親の手伝いをする少女の姿が蘇った。
「……サラ」
「ん、どうした?」
「いえ、何でもないです。食事を続けましょう」
「だな」
「あ、ミハエル!」
 残りのサンドウィッチを頬張るミハエルの耳に、同じ部屋でよく聞く落ち着いた声が入った。なんとかパンを飲み込み、ミハエルも手を上げる。
「ランツもここで昼食か?」
「はい。ランチがてらに知り合いとお話でもと。……中佐、あちらがエッカルト大公殿下の育預、ミハエル・シュレーディンガー生徒で……」
「げ!?」
 建物の影から現れた、赤と青を基調とする大猊帝国王立海軍海兵隊士官の制服を着た男は、ミハエルの目を見て素っ頓狂な声を上げる。
「え?」
「中佐、どうかされましたか?」
 ミハエルもランツも、事がわからず動揺する。
「な、な、な、なぜ……? そんな馬鹿な……」
 軍医殿を呼んだほうがいいんじゃないかとミハエルが思ったその刹那、今度は後ろから張りのある声が響いた。
「おおっ! これはマグヤ殿じゃねーか! どうだ、元気にやってたか!?」
「な、何故貴様がここにいるというんだ!? 貴様は本国に帰ったんじゃないのか!」
「プルーセン王国駐在武官として任官したんだよ。そういうマグヤ殿は?」
「マリオン駐在武官としてだな……」」
「おお! それは結構! いやぁ、偶然ってすばらしい!」
「よ、寄るな! わ、わたしは貴様の顔など見たくもない!」
 すっかり蚊帳の外に置かれる士官候補生二名。
「あの……お二人はお知り合いなのですか?」
 おずおずとランツが尋ねる。
「ハハハ、知り合いも知り合いだぞ。オレとマグヤ殿はカルヴァート海軍大学の同期だからな」
「ああ……道理で仲良しさんなんですね」
「ランツ! これのどこが仲良しに見える!?」
「いやぁ、懐かしいな。よく二人でいたずら仕組んだよな」
「貴様が勝手に仕組んだことばかりだろうが! わたしを毎回毎回巻き込んで!」
 なにやらしばらく続きそうな一方的敵意と一方的好意に、ミハエルはランツに状況の解説を頼んだ。
「あ、あちらの方はカルヴァート王立海軍海兵隊のマグヤ・F・ノース中佐です。海兵隊の戦術の参考にするとの事で、一年ほど父上の下で学んでいました」
「ああ、だからランツと知り合いなわけか」
 ミハエルが納得する間も、西之上少佐はノース中佐に一方的に話しかけていた。
「ロバートはどうした? あの水雷マニアの!」
「ホワイト一等海尉としてトリステンに行ってるが……」
「ディックの奴は? あいつもよく組んでいろいろやったし」
「奴は……わたしも知らないな」
「じゃあ、ジョンはどうしてる?」
「スミス准海佐は水雷艇の艦長をやってたが……って! そんなことはどうでもいい!!」
 そこから一歩下がったノース中佐は、ランツにすまなそうな目を向けて小さく宣言する。
「気が変わった。すまないが、わたしはこれで帰らせてもらう」
「えー、まだ話したいことが山ほどあるんだぜ?」
「うるさい!」
 西之上少佐の声を撥ね付け、ノース中佐はすたすたと中庭を後にした。
「……ノースさんも相変わらずですね」
「まぁなー。だからからかい甲斐があるってもんだが」
 不敵に笑う少佐の表情に、脇をしっかり締めようと誓うミハエルであった。





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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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