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【遥か地平線の彼方へ】第一章(22)

第一章(22)

「ちゃお~、まーたランツくんが首席かにゃ?」
「どうしたんですか?」
 役者は全員揃ったところだが、さすがに鈍感で知られるミハエルでもこの場の異様な雰囲気は察したようだ。
「まぁ、そうなんですが……」
 ピリピリとした、何かを睨むような空気。そして、それとは反対方向の能天気な羨望のまなざし。
 その二つを一身に受けていたのは、サラであった。
 妙に柔らかな雰囲気と、刺々しい雰囲気。中和されることなく漂う空気は、混沌と評するほかないだろうか。
「へ? な、何事なの?」
 一瞬で静まり返った場に、サラは混乱しているようだった。
「ミハエル~、あたしたちに内緒の話でもしてた?」
「そんなことは……」
「じゃあ、ブルーノ!」
 ローゼは仲の良い同級生のもとへ向かい、成績表を指差される。
「……あ。もしかしてあたし、負けちゃった?」
「わ、わたしが首席ですか……」
 サラが自分の成績を呟くと、数人の視線がギロリと刺すようなものに変わった。
「にゃはは、あたしも本気出さないとダメみたいねぇ」
「本気出してなかったんですか?」
「いや、今回は本気だった」
「……どっちですか」
「気にしちゃ大きくなれないわよ」
 と、ローゼはまたミハエルの頭を撫でる。
 ……微妙にミハエルも(主に下級生の)痛い視線が送られる。
「大きくって……。俺はこれでも平均はありますからいいですよ」
「あたしより小さいくせに~」
「……姉さんに言われても悔しくありません」
「むー」
(……全く。ほら、サラにまで笑われてるじゃないか)
 ミハエルは内心赤くなる。
「おいミハエル、先輩困らせちゃダメだろ」
 明らかにローゼ目当てなカルルが横から入る。
「いや、困ってるのは俺のほうだから」
「知るか!」
「そうそう。フォン=オイレンブルク君の言うとおりっ」
 あーあ、悪乗りさせてしまった……。ミハエルは慣れた姉の機嫌のグラフが右肩上がりなことに落胆する。
「お、俺の名前……憶えててくださったんですか!」
「弟君の仲良しさんなら当然ですわ」
「いや、そこだけ上品ぶらなくても……」
 今更、という突っ込みは心に留めておくミハエル。
「そうなんですよ! 俺、ミハエルとは大の仲良しで。なぁ?」
 馴れ馴れしくミハエルの肩に手を置き、もう片方の手をひらひらさせる級友に、ミハエルは一言、きわめて簡潔にはねつける。
「知らん」
「ひでぇ……ひでぇよミハエル~」
 あからさまにショックを受けた風のカルル。
「というわけで、ベルホルト。こいつを頼んだ」
 溜息でもつきそうなミハエルは、視界に入った友人に頬をつつき始めたカルルを押し付ける。ベルホルトは慣れた様子でカルルの腕を引っ張り廊下を引きずる。
「カルル、授業」
「げ!? ああ! もうちょっと姫様と話を……うわぁ!」
 ミハエルは、問題児を保護者に託すと、『満面の笑み』で見送ることにした。
「い、行っちゃったね」
 どこの喜劇という展開に、サラはおずおずと口を開いた。
「まぁ、いつものことだから」
「……はぁ」
 ……どうやら、今のカルルの『お陰』であらかたの人が帰ってしまったようだった。
 その場に渦巻いていた妙な雰囲気もなくなっている。
「……姉さん、まさか、わかってました?」
「……何のこと?」
 声のトーンを落としてローゼに聞くミハエルだったが、ローゼは笑顔のまま声だけを真面目にして聞き返してきた。
「なんと言うか……サラが来たときに雰囲気が……」
「このことはまた後でね」
 表情はそのままに、小声でローゼはミハエルにささやく。
「……そんなことより、ランツくんが見えにゃいんだけど?」
 口に手を当ててウィンクしながら、ローゼは再びいつもの声に戻った。
「ああ……多分、その辺で雑巾になってると……」
「はい?」
 ローゼは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐにさっきまで人だかりが出来ていたところに視線を遣った。
「……うう……酷い目に遭いました」
 野郎共に揉みくちゃにされ、よれよれになったランツが、壁にもたれかかっていた。
「か……」
 嫌な予感がしたのも束の間、事態はミハエルの想定した方向へ進んでしまう。
「可愛い!」
「みぎゅ」
 またローゼの抱きつきスイッチが発動するのを、ミハエルとサラは苦笑しながら見つめた。
「ところでミハエル、今ローゼさんと何を話してたの?」
「ああ、たいしたことじゃないよ」
「先パーイ、おはようございまーす!」
「この声は……」
 聞きなれた後輩の声に、ミハエルはどうしてか真っ先にローゼを振り向いた。
 ――が、時すでに遅かった。
「酷いっすよー、成績先に見るなん……ぎゃ!」
「ヒルデちゃん!!」
「あーあ」
 ランツの次はヒルデが毒牙にかかる。
「姉さん、姉さん! ヒルデが窒息しますよ!」
「にゃ? ……あ」
「……いい加減、学習してください」
「すまにゃい」
「あの……ローゼ……さん?」
「気にするな、いつものことだから……」
 先ほどからずっと引き気味なサラにミハエルは答える。
「ふう……ローゼ先パイ、その癖どうにかしてくださいよー」
「だって、ヒルデちゃんがこんなにかーぁいぃんですもの」
「誰が『かぁいぃ』んですか誰が!」
「ヒルデちゃん」
 悪びれもせず、さも当然だといわんばかりのローゼ。
「……そんなこと言うの、ローゼ先パイだけっす」
「ん? そんなことないわよ、ねぇ、ミハエル?」
(どうして俺に聞いてくる!?)
 急に話を振られたミハエルは、一瞬答えに詰まる。
「えっと……」
「うりうり、どうなんよ、そこは。お姉ちゃんに話してみなさい」
「あのですねぇ……」
 ローゼに詰め寄られながらミハエルは、後輩の何か期待した視線をその顔に浴びている。
「か、可愛いと思うぞ」
「え!?」
「ほら、やっぱりね! ミハエルもそう言うと思った!」
「せ、先パイ……」
 ヒルデは少し上目遣いで、また何か照れた様子でミハエルを見上げた。
 ――ガシ。
「へ?」
 と、突然後ろから両手を掴まれるミハエル。
 振り返ると、サラが笑顔で腕にを掴んでいる。
「あの……サラ……?」
「ちょっと尋問――ううん、少し聞きたいことがあるんだけど」
「ちょっと待って! 何でそんな笑顔なのに禍々しいオーラ纏ってるの!!」
 ミハエルの声も構わず、サラは腕を引っ張り続ける。
「ちょ、ちょっと待て、サラ! どこにそんな力が!?」
 満面の笑みでミハエルを引きずっていくサラに、ローゼはなぜかハンカチを振って見送っていた。
 ……その後、根掘り葉掘りヒルデとの関係を聞かれ続けたことは、言うまでもない。





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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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