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【遥か地平線の彼方へ】第一章(25)

第一章(25)

「お、来たか」
「こんばんは、少佐」
 西之上少佐はいつもの純白の軍服でミハエルたちを待っていた。
「遅くなってしまいましたか?」
「気にするな。オレも校長に用があったからな……っと、そちらのべっぴんさんは? 軍人っぽいが?」
 ミハエルの横に立つローゼの紹介を、少佐はミハエルに頼んだ。
「あ、こちらは……」
「大和の海軍少佐殿ですね。自分はローゼ・オイゲニー・フォン=エッカルト=コーツブルクと申します。弟がお世話になりますわ」
 猫被ってるなぁ、と姉の様子にミハエルは心の中で溜息をついた。
「これはご丁寧にどうも……って、貴女はエッカルト大公女のローゼ殿下!?」
 あからさまにたじろいで、敬礼をしなおす少佐。
「これまでの非礼をお許しください。自分は大和皇国海軍侯爵少佐、西之上平太郎翔と申します」
 そう言うが早いか、少佐はミハエルの肩を掴んで引き寄せる。
「おい、聞いてないぞ? お前、大公家の人間だったのか?」
「姉さんはそうですが、オレは育預なんですよ……それに、そんなこと言う必要もないかと……」
「必要あるわっ!」
「あの……よろしくて?」
 猫被ったままのローゼが上品に言う。
「あ、申し訳ありません、殿下」
「いえ……何かの縁ですし……お互いに普段どおりの口調でよろしいと思いません?」
 と、溜息をつくローゼ。と同時に、これまで纏っていた王女らしさが消えうせる。
「いやね、この口調結構疲れるんだわ」
 あっけらかんというローゼに、少佐はしばし唖然とするも、何を思ったか噴出し、腹を抱えて笑っていた。
「……っ、くく……っはっはは!!! なるほどなるほど。それもそうだ。さすがはクリスト大公の娘さんだ」
「パパを知ってるの?」
「有名だからね、いろいろと」
 ミハエルは少佐の言う「いろいろ」の意味がわかったが、あえて突っ込まないでおく。
「で、姫様は弟君の稽古に興味が?」
「見学よ」
「なるほどね。……ミハエルもまだ姉離れが出来ないお年頃かぁ」
「まったく、手のかかる弟だわ」
「……話が違うでしょ、姉さん!」
「おほほほ」
“お嬢様モード”に戻るローゼに突っ込むミハエル。
「まぁ、気にしなさんな、ミハエル。さぁ、やろうか」
「はい」
「身体は暖めたか?」
「ここまで走ってきましたので」
「そうかい」
 ミハエルは、持ってきた練習用のサーベルを握る。少佐も木刀を構えた。
 ローゼはニヤニヤしながら少し離れたところで立っている。
「いきますよ」
「どこからでもどうぞ」
「はぁっ!」
 ミハエルは早速、少佐のみぞうちに突きを入れる。
「…………」
 少佐は無言でミハエルの切っ先を見つめる。
 キィン!
「なっ!」
 カランカラン……。
 次の瞬間、ミハエルの剣は宙を舞って、後ろに弾き飛ばされた。
「へぇ……鮮やかなものね。手首を返して巻き上げる、か」
 後ろでローゼがやたらと感心している。
 少し真剣さが見える顔で、少佐は声を張り上げた。
「単調すぎる。もっと誤魔化せ」
「は……はい!」
 ミハエルは切り下げる構えをして少佐にかわされた後、上に切り上げようとする。
 ――だが。
 ミハエルの一撃をかわした少佐は、そのまま突っ込み、ミハエルの攻撃は不発に終わり……
 ――ドン!
「がっ……」
 ミハエルは、胸に受けた衝撃で後ろに飛ばされた。
「隙を作らせるってとこまではいいんだがなぁ……それが『作られたもの』なのか『作ったもの』なのかは判断しろよ」
「はい……」
 その後、何度かかっていっても、ミハエルは少佐に剣先さえ触れることは叶わなかった。
 決まった、と思った瞬間に、剣や身体が飛ばされているのである。
(滑稽だったろうな)
 ミハエルはちらりとローゼを見る。
「…………」
 ローゼはこれまであまり見ないような真剣さで二人を見つめている。
 ――と。
「ミハエル」
 ローゼが呟いた。
「痛てて……な、何、姉さん?」
 構えを解いて少佐もローゼを見る。
「……あたしにもやらせて」
「は?」
 西之上少佐は意外な提案に目を少しだけ見開いた。
「ほう」
「どうも、うずうずしてきてね」
「何言ってるんですか……ねぇ、少佐?」
 当然否定するものと思ったミハエルは、少佐に同意を求める。
 が。
「まぁ、俺はいいよ」
 ミハエルはつい転びそうになる。
「少佐ぁ~」
「俺からすると、一人相手にするのも二人相手にするのも同じだし」
「はぁ」
「じゃ、決まりね。ミハエル、サーベル貸して」
「はいはい」
 ローゼはミハエルがさっきまで握っていた剣を握ると、少佐に相対した。
「ミハエルみたいに手加減はいらないわ」
「うーん……じゃあ、いっちょやるか」
 余裕のある表情の少佐だったが、次の瞬間その表情は凍りついた。
「…………」
 ――キン!
 いきなりだった。
 ローゼは飛び込み、少佐の木刀の柄に切っ先が擦れる。
「お」
「…………」
 その直後、少佐が弾いたのを見るや否や、ローゼは突きを入れる。
「くっ……」
 辛うじて木刀を立てて太刀筋を外した少佐は、跳躍して後ろに飛びのいた。
「おいおい、こんなんだとは聞いてねぇぞ」
「……だから、手加減はいらないといったわけ」
「……なるほどね。女だてらにすごい人だ」
 今度は少佐がローゼに打ちかかる。
「っと!」
 ローゼはサイドステップで避ける。
 だが、その直後、少佐は木刀を振り向き様に打ち下ろした。
「っ!」
 ローゼは後ろに下がる。
 少佐の剣先は地面に直撃する。
 すぐさまローゼは剣を振り上げた。
 だが、少佐はそのまま木刀を前に押し出し、手首を返して左足を引きながら身体を上げて……
「っぅ……」
 ローゼの息が漏れる。
 少佐の木刀の先は、ローゼの肘に直撃していた。
 一時的に痙攣を起こしたローゼの左腕からサーベルが離れる。
 ――キィン!
 怯んだと見た少佐は、ローゼの剣の右手近くを弾き、剣は弾き飛ばされる。
「……これまで、だな」
「あ……あ……」
 ローゼは今の状況が上手く処理できず、声もあげられないようだった。
「姫、左腕は無事だ。きちんと加減はしたから」
「あ、……確かに……痛くない」
 ローゼは手を握ったり開いたりしている。どうやら、当たる直前に痙攣する程度に力を抜いたようだった。
「すごかった」
 ミハエルはただそれだけしか言えなかった。
 何より、自分の姉が手も足も出ない人ははじめて見たのだ。
 それと、ローゼの本気も久々である。
 普段ミハエルに稽古つけてくれるローゼは、こんなに本気を出さない。むしろ、ミハエルの実力がまだまだだから、本気を出せないと言ったほうが正しいくらいである。
「大丈夫か?」
「あ……ええ……」
「おし! じゃあミハエル、素振りだ素振り!」
 振り返った少佐は、いきなりこう叫ぶ。
「え? 素振り?」
「そうだ。やっぱり基本だ基本。姫は休んでていいが……ミハエルは充分休んだろ? ほら立てって」
「は、はい!」
 ミハエルはそれから一時間ほどひたすら素振りをさせられる羽目になった。
 くたくたになっての帰寮となったが、ミハエルがなかなか帰ってこないことに涙目になっていたランツを慰めるのに、彼はさらに疲れるのだった。






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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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