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【遥か地平線の彼方へ】第一章(26)

第一章(26)

「だぁ!」
 ミハエルは剣先に体重を乗せ、曲げた左膝を一気に伸ばした。
 キン!
「おっと……」
 眼帯の戦士は、若者の剣をさばいて自身の剣先を振り上げた。
「くっ……」
 しかしミハエルの剣はその力に抗い、相手の胸元へ吸い込まれる。
 同時に、ミハエルの頭上へ一筋の光が落ちかかる。
「…………」
「…………」
 あたりに、静寂が訪れる。
 にわかに強くなった風の音だけが、その場にいる人の耳を撫でた。
「おおーっ!」
 と、ある線が切れた瞬間。一斉に拍手が鳴り響いた。
「す、すげぇ……」
「さすが、は、ミハエル」
 ミハエルと剣術教官のフリッツ・エンツェンベルガー大尉は、それぞれの急所にあてがわれていたサーベルを下ろすと、剣礼した。
「よくやったな、ミハエル」
「ありがとうございました」
 ゴツゴツした手がミハエルの頭を撫でる。
「それにしても、随分な成長ぶりだな……いくつか俺も教えてない動きあったが……まぁいい」
 教官は眼を閉じる。
「俺の現役時代に、手合わせ願いたかったもんだ」
 眼帯をさすりながら、教官は呟いた。
「ほら、お前らも見物してないで自分の練習せんか」
「は、はい……」
「ですが、教官」
「ん、なんだ、ミハエル?」
「もう時間です」
「え? ああ、確かにそうだな」
 腰から懐中時計を取り出して、時間を確認した教官はみんなを呼ぶ。
「じゃあこれで午前の授業はここまでだ。みんな午後も頑張れよ」
「はっ!」

「ミハエル、お疲れっ!」
「先、行く」
「じゃあな」
「ああ」
 アウグスト、ベルホルト、カルルの三人組に手を振ると、ミハエルはストレッチを再開した。
「午後の乗馬訓練、遅れるなよ」
「わかってるって」
 いつものヴィンツェンツの忠告を聞き流して、ミハエルは右手を左脚につける。
「ふう」
「お疲れ様です」
「お、ランツ」
 ランツは手にタオルを持って、ミハエルに渡す。
「すまない」
 ミハエルはランツからタオルを受け取ると、顔を拭う。
「さて、飯だ。腹減ったしな」
「そうですね。今日は陽気もいいですし、練兵場ででも……」
 一息ついた。そういうひと時は、大抵すぐに破られる。
「全国の姉属性のみなさんがご垂涎になりそうなアターーーック!」
 ――むに。
「みぎゃ……はもひ、はもひむへあ(顔に、顔に胸が……)」
「ローゼさん! ローゼさん!!」
「うに?」
「あの、今度はミハエルが……」
「おにゃのこの胸で窒息するのは男の本望……ぼそり」
「あの、擬態語が口に出ていますが……」
 ランツが的確に指摘する。
「ぶはっ……いきなり何するんですか、姉さん!!!」
 ミハエルが息を吹き返す。
「まぁ、お約束だよ、チミ」
 付き合わされる身にもなってくれ、と言いたげなミハエルと、苦笑する二人。
「まぁ、ちょいとミハエルに付き合ってもらいたくてねぇ」
「面倒ごとじゃないでしょうね?」
「うわ、酷いにゃ~。せっかくサラちゃんがミハエルのためにお弁当を作ってきたのににゃ~」
「なんだって!?」
 ミハエルは思わずサラを見た。
「えへへ……」
 その手元にはまぎれもなく、ローゼが幼い頃に大和展で買ってもらった漆塗りの重箱が。
「いろいろと、ローゼさんに教えてもらって作ったんだけど……」
 赤くなって、おずおずと切り出すサラ。
「ど、どう……?」
「誠心誠意、いただかせていただきます」
「よかったぁ……断られたらどうしようかと……」
「俺がそんな風に見えるか?」
「ううん」
「だろ?」
「はいはい。見せ付けない見せ付けない」
 パンパン、と手を叩いて呆れるローゼ。
「そんなに見せ付けるんなら、いっそのこと、こう、口を開いて『あーん』とかをだね……」
「恥ずかしいこと言わないでください!」
「うぐ……お姉ちゃん、ちょっと傷ついたにゃ……」
「まったく」
 わざといじけてみせるローゼをジト目で睨むミハエル。
「でも」
 そんなミハエルの後ろで、サラが呟く。
「ん?」
「ミハエルがいいなら……」
「サラ……」
 お互いに赤くなる、隣から見ればどう見てもカップルな二人。
「ま、まぁ、そういうのはまた今度で」
「え?」
「まだまだ、これからも作ってきてくれるんだろ?」
 目を丸くするサラ。
 少しの間をおいて、一気に顔が晴れる。
「うん! もちろん!」
「そうして愛しのサラちゃんのタマゴサンドを口に入れたミハエルは奇声発するまでに感動をあらわにするのだった。完」
「ちょ」
 いつの間にか復活したローゼが、口に手を当てながらニヤニヤしている。
「姉さん!」
「うにゅ……」
「ちょっと、黙っててくれません?」
「ひどいにゃ……」
 とはいえ、さすがにこれ以上野暮なことはしないローゼ。
「じゃあ、さっそくいただきまーす」
 ミハエルはサンドウィッチを手づかみして口に放り込んだ。
 …………。
 ………。
 ……。
「……サラ」
「ん?」
「これ、タマゴサンドだよな……?」
「え?」
「あと。……やたらと……甘いんだけど……」
 サラは思わず手にとって、自分で作ったものを口にする。
「……うぅ」
「ど、どんまい」
 二人の様子に、ローゼは重箱に手を伸ばす。
「どれどれ……はむ」
 途端に表情が険しくなる。
「ま、サラちゃん。大丈夫だって、あたしが教えるから」
「……お願いします」
 泣きそうになりながら、サラは下を向いている。
「でも、じゃあ、これどうしよう……」
 サラは自分で作った弁当一式を指差した。
「ああ……えー……どうしましょう……」
 ランツも困り顔である。
「まぁ、せっかくサラが作ってくれたんだ。無駄にしないさ」
 ミハエルはサラの手から重箱を取る。
「食べれないわけじゃない」
「ミハエル……」
「次は、美味しいの期待してるさ」
「うん! 絶対今度は上手くいかせるから!」
「楽しみにしてるさ」
 一瞬、ローゼの表情に変化があったことを、その場の誰も気付くことはなかった。
「うん! ローゼさん! 思い立ったが吉日です!」
「え、あ、わ、わかったわ」
 いきなりのサラにローゼが引きずられる格好で、校舎に消えていく影が二つ。
「まぁ、達者でな」
「わたし、頑張る!」
 そう、サラの柄にもなく叫んでるのを聞いたような気がする。







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おぉやっと続編が作れましたね。
いままで法案問題で書く暇がなかったでしょうに・・・。

>アルミナさん
せめて、年明けには第一章終わりたいのですが……どう考えても無理な気が^^;

法案問題も、ここまで騒がれなきゃ(というか、ニコニコにまで出張ってこられなきゃ)平穏無事に過ごしていたかと思うといろいろと悲しくなってきます……
プロフィール

久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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