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【遥か地平線の彼方へ】第一章(27)

第一章(27)


 本日午後の最後の授業は、戦術教官のエーリヒ・フォン=ファーレンハイト少佐による座学だった。
「……と、スィナンの『神の剣』は東ロマーナ交易の拠点である――」
 ――ゴーン、ゴーン、ゴーン。
「っと、もうこんな時間か。今度は多少政治が関わるが、諸君はこの件についてレポートをまとめてくるように。提出はこの間のレポートがあったから……次の週でいい」
 フォン=ファーレンハイト教官が教室を出て行き、再び騒々しくなる教室。
 同時に、顔が真っ青になっている本物語の主人公がいたことは、誰も気付いていなかった。

(しまった、しまった、しまった!)
 教官の「課題」の言葉に、ミハエルは頭を抱えた。
(手なんかつけてるわけねーよ)
 とりあえず紙とペンを抱えて図書館へ向かうため練兵場を横切るミハエル。
「あ、先パ~イ!」
 そんなミハエルの耳に、この青空のように晴れ上がった声が入る。
「ヒルデか」
「何すか、そのやる気のない返事は……」
「いや、課題が残ってるのに、こんないい天気なもんだからな」
「要するに、サボりたいんですね」
「要約しすぎだ」
「で、そんなことを後輩に聞くあたり、切羽詰ってるんすね」
「まぁ、そうなんだが」
「フォン=ケストナー先パイに聞いてみるのは?」
「いや、ランツは自力で解けと言ってくる」
 手直しは手伝いますから形だけでも作っていただかないとご自身のためになりません、というランツの口調を真似て、ミハエルはうな垂れた。
「ははは……確かに、お堅い人っすね」
「多少融通利かせてくれてもいいのになぁ」
「先パイ、それは融通とは違うような……」
「イインダヨー」
「グリューンダヨー」
 お互いに黙り込む先輩後輩。
「ぶっ」
 どちらからともなく噴き出すと、手を振ってまで笑い出した。
「ちょ、今、打ち合わせなしだったぞ」
「っははは……そうっすね!」
「なかなか息もあってたしな」
「何なら、お笑いコンビで売り出しますかね」
『お巡りさん、実は犬がいなくなったのですが……』
『では、張り紙などしたらいかがでしょうか?』
『そう思ったんですが、生憎、家の犬は字が読めないんですよ』
 少し首をひねる二人。
『人間、やっぱり聞きたくない言葉ってありますよね』
『某業界では「体力の限界」だそうで』
『女性は「若いうちが花」だったそうで』
『でもやっぱり一番聞きたくないのが』
『「繰り返す、これは訓練ではない」っすね』
 思ったより滑ってしまい、溜息をつく二人。
「なんだか、俺、すごく後悔したんだが」
「自分もっす……」
「素直に生きていくか、お互いに」
「そうっすね……」
 ――ガシ。
 二人はお互いの肩を叩き合った。
「何、青臭い友情ドラマのワンシーンやってんだ、お前ら」
「わっ!」
「いきなり驚かすなよ、カルル」
 と、クラスのお調子者の方向を向いたミハエルは愕然とした。
「ん? どうした?」
「そ、その資料類は……もしかして……」
「課題用に決まってんじゃん。俺が最終日以前に終わらせると思ってたのか?」
「いいよな、お前は、こういうことに関しちゃ真面目だから。どうせ課題終わってんだろ?」
 ふてくされるカルルに、ミハエルは小さく呟いた。
「……ない」
「え?」
「終わってない……」
「…………」
「…………」
 カルルの目が喜びに満ち溢れる。
「やった! 仲間! 仲間ができたぞ!! 主よ、ありがとうございます!!」
「やめろ! 全身全霊を持って感謝するのをやめろ!」
「ふう……これで無理に課題終わらなさなくても~、怒られるのは俺だけじゃあないな~」
「俺は課題終わらない前提か!」
「前提じゃない」
 何かことを成し遂げたように、カルルはミハエルの肩を持った。
「 終 わ ら す な (はぁと」
「死ね、氏ねじゃなくて死ね」
 胸倉を掴みかかるミハエルの手を華麗にかわし、カルルは舌をちろっと出していたずらっぽく笑いながら練兵場を駆け抜けて行った。
 唖然とするミハエルだったが、そんなことをやっている余裕がないのはわかっているので、頭を切り替えて図書館へ向かう。
「というわけでヒルデ、すまんが課題やってくる」
「わかったっす。先パイ、ガンバっすよ!」
 後輩に見送られ、ミハエルは静かな戦場へ足を伸ばした。






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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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