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【遥か地平線の彼方へ】第一章(28)

第一章(28)


「あら? ミハエルが図書館に居るなんて珍しいわね」
 図書館の机で云々唸っていたミハエルを、図書館に借りた本を返しにきたサラは見つけた。
「お、サラか。……まぁ、ちょっと課題があってな」
「課題? えっと……『南カルヴァートによる統一戦争で、ファルストールの戦いからデュナサン・ムーの戦いにかけての戦訓を3つ以上見つけなさい』」
 ミハエルの隣に座ったサラが課題を覗き込む。
「うーん……それでわざわざ図書館まで調べに着たんだけど……」
「……確かに、基本問題ね」
「……そんなあっさり言うなよ」
「ランツくんに聞けばわかるんじゃない?」
「ダメだって。ランツに聞いても、『これはミハエルでもわかりますよ』だって」
「あはは……確かに、言いそう」
「うわ……さり気に酷いこと言うな」
 ひとつ年下の、一学年先輩の言い方に撃沈するミハエル。
「……それにしても……これはランツくんが好きそうな問題ね」
「どういうこと?」
「ほら、ちょっと前になるけど、ミハエルの部屋行ってお話したじゃない? あの時よ」
「ごめん。難しい話だと思って聞いてなかった」
「もう! 何してるのよミハエル~! あの時の話聞いてればこの問題一瞬で解けるわよ」
「うう……聞いてなかったことを今更言われても……」
 ミハエルはますます小さくなる。
「もぅ……仕方ないなぁ」
 サラはそんなミハエルを見かねたか、ミハエルのいる机の向かいに座って、広げている資料を指差し始めた。
「まずは……ファルストールの戦い。ここのポイントは騎兵の使い方よ」
「騎兵の使い方?」
「はじめに、槍衾作られているところに騎兵が突撃したでしょ。そのときは撃退された。でも、長弓兵が北カルヴァート軍槍兵隊へ射撃を行って陣形を乱す。ここで騎兵が突撃すれば北カルヴァート軍は敗走……ここまでは大丈夫?」
 ミハエルはこくりと頷く。
「でも、次のフロントバインの戦いでは、南カルヴァート軍が長弓兵を無防備にしたばかりに先に急襲を受けて退いてる」
 サラは丁寧に地図をなぞりながら説明を続ける。
「最後はデュナサン・ムーの戦いね。南カルヴァート軍はまず、戦闘予定地になりそうなこの三日月状の丘を、騎兵が機動力を活かして占拠。そこで騎兵は下馬して歩兵として中央前面に配備。直ちに長弓兵は三日月の内側に杭を打ってバリケードをつくり、北カルヴァート軍を待ったわけ。あとは下馬騎兵が敵軍を拘束しながら、その両面に長弓兵が矢を射かけ続ける。そうすれば北カルヴァート軍は三日月の中央に押し込まれ圧死が発生。後は敗走するだけ」
 スッスッスッ、とサラは地図上で指を走らせる。
 まるで、その指のまま兵が動いているような錯覚さえあるくらい、サラは活き活きと説明した。
「ファルストールの戦いでは、弓兵と騎兵の共闘で、強力な槍兵の守備陣形を崩すことが出来た。次のフロントバインの戦いでは、弓兵を無防備にしたばかりに敗退している。最後のデュナサン・ムーの戦いでは、弓兵と歩騎兵を共闘させた陣形は崩すのは困難だということ。つまり、いくつもの兵科を適材適所で使うと、単純な総和以上の効果が得られるってことなの」
 窺うように、サラはミハエルの顔を覗いた。
「……どこが、『簡単』なんだ……それの」
「え? これって結構単純なんだけど……」
 心底意外そうにサラは驚いた。
「要は、自分の強いところで受ける、っていう基本を忠実に行うってことだもん。自分の強いところに敵の弱いところを当てる。自分の弱いところへは牽制や妨害をやって攻撃させない。騎兵は速射兵器に弱かったり、砲兵は突撃に弱かったり、それぞれに欠点がある諸兵科でも、共闘させれば補えあえる……」

 ――『能動的防御』は、相手を自分の得意分野に追い込むことが容易いのですね。

「ああ……なんとなくわかったような気がする」
 ミハエルは、ランツが課題などでよく言う口癖を思い出す。
「でしょ?」
「そういえば、剣術でもそんな感じだったな。どうやって相手を崩すかとか、隙が多いところ狙うとか」
 ミハエルの中で、昨夜西之上少佐に稽古をつけてもらったことと、ランツの言葉、そして今のサラの指摘がすべて結びついた。
「うーん……そうね、結局実際に戦うのは人間だもんね。個人技でも、応用はいくらでも出来るんじゃない?」
 サラは目を細めてミハエルを見つめた。
「懐かしいね、こんな風に二人で話するのは」
「そう……だな」
 図書館とはいえ、今は砲兵科と工兵科の授業中で、あまり人が居ない。
 これまでサラと会話するといっても、何かにつけローゼが居たり、ランツが居たり、その他クラスメイトが居たりして、じっくり二人きりで話をすることはなかった。
「そういや、あの頃からサラは頭良かったよなぁ」
「そんなことないよ」
「ほら、父さんの農学書を一晩で憶えたり」
「うう……そんな昔のこと出されても」
「昔といえば……よくサラって近所の子にからかわれてたよな」
「もう! 思い出させないでよ~」
「……でも、そんな近所の子達も……あのあと」
「……うん」
 突然攻めてきた、異様に近くに感じる雄叫びが脳裏に浮かぶ。
「……嫌なこと思い出させたかな」
「いいよ……」
 俯いて、サラはか細い声を出す。
「ミハエル……ちょっと、外出よう。ね?」






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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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