スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【遥か地平線の彼方へ】第一章(30)

第一章(30)

 一八六八年。零下のブロサール共和国首都ザンクト・ニコラスブルク、大統領執務室。
「閣下。お疲れのようですな」
「……ベルス公。また反乱の報告だ。これで何度目か」
 報告書から目を離し眼鏡を外したのは、ブロサール共和国第三代大統領イヴァン・イリイチ・コルガノフ。机を挟んでソファにくつろぐは、ブロサール国民会議議長エマニュエル・ド・ベルスである。
「ブラスィヤを統治するには鉄の手が必要だ。しかしその手には手袋をはめておく必要がある、とは言うがね」
「公よ。それでは改革の意味がない」
「ただの戯れだ」
 エマニュエルはポケットからマッチを取り出し、葉巻に火をつけた。
「戯れでは済むまい。公までそのようなことを言い出せば、ただでさえ反動化してきているブラスィヤはどうなる」
 議長は紫煙を口に含み、ゆっくりと吐き出す。
 葉巻の甘い香りが執務室に漂った。
「それほど根を詰めなさるな。議員の説得はすでに始めている」
 ――我が国は遅れている。
 先のスィナン、カルヴァート、アクターニュ連合との戦争で痛感した現実を、大統領と議長は噛み締めていた。半世紀前のオルラレン戦争後の青年将校たちの蜂起は貴族社会に潰されたが、敗戦により打ちのめされた今度の改革は着実に実を結び始めていた。
「そういえば、閣下」
 険しい顔から穏やかな顔に戻ったエマニュエルの声は弾んでいた。
「シュタールブルクの姫君はそろそろ到着するのでは?」
「マヴロミハリス外相を向かわせているが……公は面会の予定があったように思うが……」
「引き続き教官を送ってもらわねばならないからな。司法改革はまだ三年目だ」
「アクターニュの手はあまり借りたくない……だが、友好国のプルーセンも社会制度では後進国だ」
「成熟した市民がいないのは、我々とて同じ。民を富ませて教育を施さねば、国民軍は作れない」
 もう二度と、クリミル戦争のような無様な真似は嫌だ。ブラスィヤの首脳らは打ち倒される軍旗を眺めるしかなかった苦い記憶を振り払いたい。
「ともあれ、個人的には若い娘(こ)と久々に話せるのが楽しみだが」
 立法府の長の口から出たとは思えない台詞に、大統領は力なく息を吐く。
「公には養女(むすめ)さんがいるでしょう」
「それはそれ、これはこれ」
「……それだから公は誤解されるんだ」
「問題はないさ。見るのはいいが手は出さん。紳士のたしなみだよ」
「猊国の紳士方に謝ったほうがいいと思うぞ」
 互いに肩の力が抜け、いつの間にか青年将校時代の口調に戻っていた二人であった。





遥か地平線の彼方へ 過去ログ
キャラクター紹介
キャラクター紹介2
プロローグ
第一章 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21) (22) (23) (24) (25) (26) (27) (28) (29)
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

ネタ・講座系マイリスト→こちら
ジャンルわけしたもの→こちら

ニコニコユーザページ:user/509254


SkypeID:hisamatomoki
twitterへはこちら
mixiへはこちら
pixivへはこちら

政治ネタ用別館

連絡先↓
下記メールフォームまたは以下アドレスまで。
hisama_tomoki●yahoo.co.jp
(●→半角@へ変換お願いします)

ニコニコ動画mylist
久間知毅さんの読書メーター
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
カテゴリー
月別アーカイブ
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。