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【遥か地平線の彼方へ】第一章(33)

第一章(33)

 サラから思いがけない『宿題』を言い渡されたミハエルは、自室のベッドへ寝転んでいた。
「俺、何を言ったんだ?」
「何を考えておるのだ、シュレーディンガーよ」
「のわぁ!」
「こら、余を驚かすでない」
 背後からの高く幼い声は、甚だ呆れ返っている。
 いや、驚くなって言うのも難しいと思うけど、とミハエルは尊大な少年に相対した。
「余は先ほどからずっとここにおったぞ。それなのに貴様は茶のひとつも出さんどころか気付きもしない。一体どういう了見じゃ?」
「は、はぁ」
 ルドルフのここまで態度が大きいと、怒る気も失せてしまうミハエル。
「何が言いたいのだ」
「い、いやぁ……そんなに考え込んでたんだ、俺」
「考え事をしていて気付かなんだのか……余もそのくらいの歳になれば、そんな悩みを持つのかのう?」
「それは……わからないけど……」
「なんじゃその面倒くさそうな顔は。余も面白くないぞ」
 ベッドで脚をばたつかせるルドルフは、確かに十二歳の子供に見えた。
「じゃあ、質問いいか?」
「ん? なんじゃ?」
「ランツに会いに来たのか?」
「そうじゃ。近侍の者から逃げるのは、些か骨が折れたぞ」
「近侍の人も大変だな」
「余とて大変なのじゃ。ひとつ街に出るにも、やれ会議だ、やれ警備だと騒ぎよる」
「まぁ……それはつらいよなぁ」
 士官候補生には貴族が多いため、ミハエルは貴族と言っても普段から接しているつもりだ。しかし、ここまでの『箱入り』具合ははじめて聞いた。……中にはローゼのように明け透けでかつ王家という人物もいるが。
「そうじゃ! おぬし、余に外の様子を教えてくれい」
「外の様子!?」
「そうじゃ。ランツに聞いても面白くない答えしか返ってこん」
「ハハハ……まぁ、ランツはまだ十二だしな。それにあの様子だと、街に出たことも余りないだろうし」
「のう、シュレーディンガーよ。おぬしは街に出た時、どこにいくのだ?」
「あんまり出ないからなぁ……いつもは学用品の補充とか、本屋行ったりとかだな」
 しかも、ミハエルにとっては「ローゼの荷物持ち」の場合が多いが。
「ほう……ランツよりはいろんなところへ行っておるのだな」
「あれ? ランツって週末は結構外泊してるぞ」
「ハハハ、それは余のところへ来ておるのだ。いつも寄り道もせずやってくるのじゃが……」
「なるほど、ランツらしい」
「ランツは自分でも買出しに行ってないからのう。全部家臣に任せておる」
「……たまにこの部屋に荷物届けに来る人、ランツの家臣だったんだ……」
 ランツの父、ヴィルヘルムは南部のケストナーの領主であり、村の管理は執事に任せてるとミハエルは聞いていた。
「じゃが……それだけなのか? ほら、……なんじゃったかな」
「どうしたんだ?」
 ルドルフは両手を頭に遣って考え込んでいる。
「そうじゃ! シュレーディンガーよ、おぬしは娼館に行ったことはあるか?」
 世界が固まった。
 ――今、この子はなんて言った?
「すまん、もう一度言ってくれ」
「耳が遠いのう。おぬしは娼館に行ったことはあるのかと聞いておる」
「しょ……娼館!?」
 ちょっと待て、この子はランツと同い年だろうに。どこでそんないかがわしい言葉を教えられたんだ。
「ルドルフくん……そんな言葉、どこで憶えたんだ?」
「余の警護をやっている者たちの雑談を立ち聞きしてのう、娼館というところへ行って楽しかったと言っておったのじゃ」
 ……なんて教育上不適切な警備員だ。
「ん? おぬしは行ったことないのか?」
「ないない」
「おかしいのう……警護の者の話では、男なら誰でも行ったことの店らしいのじゃが」
 ――おいおい、なんて教育上不適切な警備員だ!
 ミハエルは激しく心の中で突っ込む。
「まぁ、確かに男なら興味がないわけじゃないけど……って言うか、青春の青い性には逆らうのは難しいって言うか……」
「何を狼狽しておるのじゃ、おぬしは?」
「狼狽させてるのは君です!」
「……そんなにおかしいことを言っておるのか、余は」
「それはもう激しく」
「むむむ……わからぬ」
(そう頭を抱えて悩み抜かれても、こっちが困ってしまうのだが)
 口には出さず、ただただ呆れる他ないミハエル。
「まあよい。今度近侍の者にでも問うてみるまでじゃ」
(近侍の皆さんに合掌)
 その後、この少年は、いろいろと間違った庶民の知識をミハエルに披露してくれていた。
「それにしても……おぬしは面白い奴じゃ」
「いきなりどうした?」
「ほら、こうして余と対等に話しておる」
「そんなに不思議なこと……かな」
「余の一番の友人であるランツでさえ、余には敬語じゃからな。それに比べておぬしは、敬語の使い方も知らぬようじゃ。はっはっはっは」
「それ、褒めてないし」
「そうじゃ。おぬし、今本科1年か?」
「え? ああ……そうだけど」
 唐突に話題が変わったものの、ミハエルは普通に答えた。
「そうか……騎兵じゃったな……卒業まで2年か」
「俺が卒業したら何かあるのか?」
「礼じゃ。おぬしが卒業したら、礼をとらす」
「……はぁ」
 なぜ卒業したらなんだろう、という疑問もあり、ミハエルは優しく声を掛ける。
「そんなに気を遣わなくてもいいぞ」
「いや! 遣うのじゃ。余はおぬしに礼をしたいのじゃ」
 そういうと、少年はミハエルのベッドの上で手足を投げ出し暴れだした。
「わかった、わかったから。謹んでお受けしますよ」
「それでよい」
 少年は、至極満足げに胸を張っている。
 ……ガチャ。
「ただいま戻りま……」
「おお、ランツ! 遅いではないか」
 時が止まる一瞬。
「……っ! ま、ま、また抜け出してきたんですかっ!!!」
 部屋に戻るなり、ルドルフの姿を認めたランツは、前の時同様、悲鳴に近い叫び声を上げていた。






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久間知毅

Author:久間知毅
和歌山の南の方出身/学生時代:電気工学→理論計算機科学/歴史小説書きorシナリオ書き,たまにイラスト担当/ニコニコ動画では語学(ドイツ語等)講座,数学講座やドイツ統一史を連載中/TRPG(クトゥルフ,ARA2E),艦これ

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